考察:涼宮ハルヒとTPDD

提供:SOS団Miraheze支部

考察:涼宮ハルヒの時空観において、ハルヒ時空が量子化されていることを解き明かしたが、今回は時間平面理論の再現を試み、そこから作中におけるTPDDの実現と、その際の涼宮ハルヒの役割について考察する。

時間平面理論の再現

時間平面理論の言語化可能性問題

時間平面理論の再現に向けて、考えるべき問題が一つある。時間旅行の理論や時間平面理論は言語化されないのではないか、という作中設定だ。

時間旅行について、『憂鬱』では長門有希が「言語では概念を説明出来ないし理解も出来ない」[1]と語り、『消失』でも朝比奈みくる (大)が「STC理論は特殊な概念上の方法論に立脚しています。それを分かるように伝えるのは言葉では無理なんです」[2]と語る。

しかし、言語で理解できないのは誰なのか、理解できるように表現できないのは誰なのかという問題は、一考の余地がある。というのは、編集長☆一直線!では、実際涼宮ハルヒが、時間平面理論の基礎を論文化してしまっており、時間平面理論、又はその発展形としてのSTC理論は、少なくとも部分的には言語化可能であることが示唆されているからである。

最もあり得るのは、言語での説明はキョンには理解できない、ということであろう。実際、涼宮ハルヒの論文も、キョンは理解できていない。故に、その具体的内容が言語化されることはない。

次に考えられるのは、メタ的解釈である。この場合、作者谷川流が説明を回避することで理論的破綻を防ごうとした可能性があり、説明できないというのは、作者の立場からの見解ということになる。

しかし、いずれの場合でも、時間平面理論は絶対的な意味で言語化不可能な存在ではない。故に、ここに実際に時間平面理論の言語化を試みることは、ある程度までは可能なはずである。

時間平面の定義

同時性は観測者の移動速度や周囲の重力場による時空の歪みによって簡単に変化する。

時間平面理論では時間は「その時間ごとに区切られた一つの平面を積み重ねたもの」[3]だとされているが、たとえ時空が量子化されていても、観測者の速度や周辺の重力場の影響による同時性の揺らぎを免れることはできない。何故なら、笹の葉ラプソディでハルヒが特殊相対性理論に言及し、驚愕後編では国木田が湯川秀樹に言及するなどの描写から、ハルヒ時空は大枠ではこの世界の物理法則とほぼ同じ法則が成立していると考えられるからである。

故に、時間平面を定義しようとする場合、その定義は観測者ごとの同時性の揺らぎによって変化するものであってはならない。つまり、ニュートン的な、観測者に依存しない絶対的な時空のような絶対的な時間平面は定義することができない。何故なら、仮にそのような平面があったとした場合、観測者によっては複数の時間平面の現象が交錯して同時に観測されることとなり、「時間はパラパラマンガみたいなもの」[4]ではなくなってしまうからである[5]

そのように考えると、時間平面の定義には、時間と観測者の両方を含めることが合理的だと推測される。個々の観測者ごとに同時に起こる、つまり同時として観測される現象は変化するが、観測者を基準として「同時」な一連の時空量子の集合が時間平面だと定義されるという考え方である。

すなわち、時間平面は、観測者と、その観測者にとっての時間によって、以下のように定義される。

時間平面とは、ある観測者にとって、主観的時刻に同時に観測可能な全宇宙である。

故に、時間平面のことは、以下と表記する。にとっての変化は、観測者の速度と置かれた重力の強さに影響されるが、その変化量、ないし時間の遅れの大きさは相対性理論によって規定される。この時間の遅れや空間設定のずれは、地球上の移動であれば(未来版)GPSで修正可能であり、微差で済む。だが、TPDDを地球から地球外への移動、つまり宇宙旅行の技術に転用する場合、より複雑な計算を行う必要が出てくると考えられる。

時間旅行理論

時空に穴をあける時間旅行方式の研究。ワームホールを使用した場合。
時空に穴をあける時間旅行方式の研究。宇宙ひもを使用した場合。

時間平面が定義された以上、次に考察するべきなのは、時間平面理論、特にそれによって可能になる時間旅行理論である。

考察:涼宮ハルヒの時空観で、ハルヒ世界の時空は量子化されていることは既に述べた。しかし、現代科学の主流派理論では、プランク時間プランク長さも、そのオーダースケールな何かも、時空の最小単位として働いている訳ではないとみなされている。その可能性を探る主な理論としては、二重特殊相対論(英語版)などが挙げられるが、これはローレンツ不変性(英語版)を破ることが不可避であるため、今のところ主要理論としては受け入れられていない。しかし、理論的可能性が完全に排除されたわけではなく、また、時空の量子化が仮に排除されたとしても、TPDDの時間航行原理である、「時間平面に穴をあける」ことによる時間旅行は不可能ではない。

相対性理論の明かすところによれば、未来への時間旅行はそれほど困難ではない。何故なら、無重力のある点を基準として、この点で時間が経過するとき、質量の天体が発生させる重力場にある物体では、重力による時間の遅れ(一般相対性理論:万有引力定数、:光速、:天体からの距離)が、速度で移動する物体ではその移動速度による時間の遅れ(特殊相対性理論)が発生し、この時差による遅れを利用すると、基準点から出発して戻るまでの旅行のみで未来にたどり着けてしまうからである。

問題になるのは過去への遡行の方で、時間平面に穴をあけることが確実に必要になるのも、こちらである。一般相対性理論の明かすところでは、時間的閉曲線(英語版)が存在する場合、又は時空そのものに位相欠陥(英語版)などによって欠落を生じさせた場合に、理論的な過去への遡行の道が開ける。

時空に穴をあけるという言葉の文字通りの解釈に最も近いのは、ワームホール(英語版)である。しかし、ワームホールを使った時間旅行では、ワームホールをタイムマシン化させる前の時間には行くことができないという制約があり、この世界にいなかった未来人の過去への遡行を可能にする装置としては不適切である。また、ワームホールは特殊な時空の歪みであって、穴のように見えるが必ずしも文字通り時空に穴をあけているとは言えない。

故に、時間に穴をあけるとは、時空を文字通り欠落させることだと考えた方が望ましい。これは、時間平面破壊装置というTPDDの正式名称とも合致し、整合性が高い解釈である。

この場合のアプローチの一例として、左図のように宇宙ひも(英語版)の周りを十分に高速で周回する場合が挙げられるが、この場合過去への遡行は理論上いくらでも可能である。但し宇宙ひもそのものが使われているとは限らない。宇宙ひもの場合は質量・規模共に膨大となるが、必要なのは局所的な時空の欠落であって、宇宙ひもそのものではないからである。

時間平面理論とTPDDの実用化

エネルギー源問題

TPDD実現にあたっての最大の問題点は、エネルギー供給である。宇宙ひもほどの規模がないとしても、時空そのものを欠落させるには膨大なエネルギーを発生させる必要がある。更に言うと、それだけのエネルギーを受けても人体が損傷しないように、エネルギーを正確に制御する必要もある。これは、現代の技術では解決の余地がない。しかし、作中では、エネルギー保存則を無視した規格外の存在、つまり涼宮ハルヒがそれを解決できる可能性がある[6]

次世代コンピューター問題

TPDDは「記憶媒体に頼らないシステム」[7]であり、「物質に依存して」おらず、「頭の中に無形で存在」[8]するコンピュータを利用した無形的存在である。このため、TPDDの実現に向けては、この次世代コンピューターも実現しなければならない。恐らくその先駆的存在はブレイン・マシン・インタフェース(英語版)やバイオコンピュータ(英語版)を活用した複合的な生体コンピュータシステムで、やがては脳間ネットワーク(ブレインネット)をブレイン・ブレイン・インターフェース(英語版)によって実現することで、未来の人類は集団的超知性へと至るのではないかと推測される[9]

TPDDの誕生国

TPDDは、間違いなく日本で生まれる。何故ならば、Time Plane Destroyed Deviceという「正式」名称は、英語としては意味不明の和製英語だからである[10]。実際、ハカセくん涼宮ハルヒ、記憶媒体の所持者といったTPDD開発のキーパーソンは全員日本にいる。恐らくは朝比奈みくるの帰還を受けて、その正体を知ったハルヒがみくるに会うべく開発の中心となり、TPDDの正式名称も、キョンがみくるから聞いた名前を既定事項としてそのまま採用してしまった結果、というところになる可能性が高い[11]

涼宮ハルヒの役割

涼宮ハルヒの役割の一つは、時間平面理論の初期の発見を行うことである。但し、これだけであれば、ハカセくんのような代わりはいるので、決定的な重要性を持つとは言い難い。

しかし、編集長☆一直線!で時間平面理論の基礎を書いてしまった後になってもなお、「涼宮さんがどれだけ貴重な人か解っているはずよ。もし彼女がいなければ、わたしたちの未来は……」と朝比奈みくる (大)は語り、藤原はこれに対して、「未来が必要とするのは涼宮ハルヒではなく、その力だ」と返している[12]。このことから、涼宮ハルヒの力、つまり願望実現能力が、未来によって有効活用される必要があるということが分かる。そして、それこそが、ハルヒのTPDD開発における唯一無二の役割であると推測される。

涼宮ハルヒは、いずれ朝比奈みくる (小)とはお別れを迎えることとなる。そして、その時までには、みくるが未来人で、他の団員も属性持ち、キョンがジョン・スミスであることや自分の力のことも何らかの形で知らされることであろう。

そうであれば、彼女の考えることはほぼ明らかだ。みくるに会いに行くために、TPDDを自分で開発しようとする。そして、時間旅行とタイムパラドックスの問題について、長門有希が「そのうち解る」[13]と発言し、みくる (大)も「あなたにもそのうち解ります」[14]と述べているのは、キョンの存命中に、TPDDの開発が成功するということであろう。ハカセくんの基礎理論、復元されたTPDDの設計図データなどが揃い、かくて、ハルヒのもとにTPDDの必要材料が全て集まるとき、最後のボトルネックになるのが上述のエネルギー源の問題である。

遅くともここで、ハルヒはエネルギー源の供給に自覚的に同意するはずである。そして、過去の自分と緩く無意識を同期[15]させ、TPDD利用者が力を持って以降の時代へのハルヒの力を借りる権限と、未来側への半永久的なハルヒエネルギーへのアクセス権限を与えることだろう。それは、恐らくハルヒ亡き後は、TPDDそのものに分散的に埋め込まれることになると思われる。

次元断層問題

次元断層には二種類存在する。ハルヒの力が原理的に存在しないがゆえにその力を借りられない次元断層と、ハルヒが力の提供を拒んだために発生する次元断層である。

前者の次元断層は、中学生のハルヒが力を発現した時点に存在する。みくる (小)はその原因を知らないと主張するが、知らされていないだけの可能性もあり、この発言が時の未来人の見解と一致するとは限らないことには注意する必要がある。

後者の次元断層は、藤原たちの時間線を分断するなどの形で実在している。エンドレスエイト分裂説を採用するのであれば、エンドレスエイト期間にも、一時的に次元断層が張られていたか、少なくともエンドレスエイト期間中への未来からのアクセス権限は剥奪されていた可能性は高い。

TPDDと人類の自律進化

TPDDの実現は、人類の自律進化の第二フェーズへの移行を意味する。何故ならば、ハルヒエネルギー=情報創造能力の利用者が、ハルヒ個人からTPDD利用者全体へと集団化し、人類の自律進化もまた個人の減少から人類全体の減少へと移行するからである。故に、恐らく長門有希は観測を続け、TPDD発明の代償にハルヒが願望実現能力の大半を手放したとしても(手放さなかったとしたら無論)、地球に残り続けるだろう。その意味では、涼宮ハルヒにとって、TPDD開発はみくるとの再会のみならず、長門の帰還阻止の機能としても働く可能性が高い。

脚注

  1. 憂鬱スニーカー版、p.214。
  2. 消失スニーカー版、p.175。
  3. 涼宮ハルヒの憂鬱、スニーカー版p.145。
  4. 憂鬱スニーカー版p.146。
  5. パラパラマンガに斜めに差し込む楔のようなものをイメージすると良い。「絶対的」時間平面を仮定すると、観測者はしばしばこうして複数の時間平面上に「同時に」存在することとなってしまう。
  6. 涼宮ハルヒの情報創造能力は完全な無から情報を作り出す。そして、膨大なエネルギーが必要になる時間平面の継続的な書き換えも行うことができる。いずれも、涼宮ハルヒがエネルギー保存則を無視した存在であるという証拠になる。
  7. 退屈スニーカー版、p.173。
  8. 消失スニーカー版、p.176。
  9. そしてその超知性が住む未来世界では、伝統であることのみが理由である慣習等は、その多くが滅びることとなるのかもしれないみくるが何故かこの時代の慣習や文化の多くを素で知らないのも、そのためだと思われる。
  10. 事実、英語アニメ版消失では、Time Plane Destruction Deviceという表現に置き換えられている。
  11. それがキョンが英語ができないからか、みくるがドジを踏んで言い間違えたからか…。
  12. いずれも驚愕 (後)、p.168。
  13. 退屈スニーカー版p.131。
  14. 消失スニーカー版p.176。
  15. 情報統合思念体にできることは、それ以上の情報創造能力を有するハルヒには当然できると考えて良い。

関連項目

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